2017年1月より、新しい医療費控除「セルフメディケーション税制」が始まりました。
これにより、普段は医療機関を受診しない人も、気軽に医療費控除の恩恵を受けられるようになります。
今回は、セルフメディケーション税制の特徴や、従来の医療費控除と比較したポイントについてお伝えします。
セルフメディケーション税制とは
セルフメディケーション税制とは、世帯で年間1万2000円を超えるスイッチOTC医薬品(市販薬)を購入した場合、超過分が所得控除の対象となる制度です。
症状の軽い不調は、適切な健康管理と自己服薬によって改善することで、医療費の増大を食い止めるという目的があります。
なお、セルフメディケーション税制は、従来の医療費控除の特例として、今後5年間にわたり実施される予定です。
従来の医療費控除とは選択適用となりますので、セルフメディケーション税制を選択した場合、医療費控除の適用は受けられません。
対象となる人は
また、多くの市販薬を購入したからといって、すべての人がセルフメディケーション税制の適用を受けられるわけではありません。
具体的には、以下の要件を満たす必要があります。
1.その年に予防接種や定期健康診断を受けている人
そもそも、セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」を意味します。
したがって、セルフメディケーション税制による控除を受けるには、健康の維持・増進のための「一定の取組」を行う必要があります。
具体的には、以下に挙げる健康診断等を受ける必要があります。
・特定健康診査(メタボ検診)
・予防接種(インフルエンザワクチンも可)
・定期健康診断(勤務先の健康診断)
・健康診査(人間ドックなど)
・がん検診
上記のうち1つでも受けていれば、セルフメディケーション税制の対象になります。
勤務先で定期健康診断を受けていれば、この要件は満たせるので、毎年必ず参加するようにしてください。
ただし、任意に受診した全額自己負担の健康診査は対象にならないので注意しましょう。
2.所得税・住民税を納めている人
控除を受けるには、元々税金を納めていることが必要になります。そのため、非課税世帯は控除の対象になりません。
3.1年間で、1万2000円以上の対象商品を購入している人
セルフメディケーション税制による控除は、対象医薬品の購入額が、世帯で年間1万2000円を超える場合、超過した部分が控除の対象になります。
例えば、1年間に5万円の対象商品を購入した場合、控除の計算式は、
50000円(購入金額)-1万2000円=3万8000円(控除額)
となり、控除額は3万8000円です。
なお、控除額の上限は8万8000円となります。年10万円以上の対象医薬品を購入した場合、10万円を超える部分は控除対象になりませんので、注意しましょう。
対象商品は?
一口に市販薬とはいっても、種類は様々です。どのような市販薬を購入すれば、セルフメディケーション税制の控除が受けられるのでしょうか。
スイッチOTC医薬品とは?
まず、OTC医薬品とは、一般用医薬品のことです。ドラッグストアなどで販売されている薬がこれにあたります。
中でも、セルフメディケーション税制の対象となるのが「スイッチOTC医薬品」という、医療用医薬品から一般用医薬品に切り替えられたものを指します。
成分や効果が医療用と変わらないので、薬剤師によるサポートが必要になります。
また、厚生労働省のWebサイトでは「セルフメディケーション税制対象品目一覧」が公開されています。 CMでもよく目にする医薬品も、多くがスイッチOTC医薬品になっており、控除の対象となります。
対象商品にはマークがある?
また、対象商品の多くには「セルフメディケーション 税 控除対象」と書かれた共通識別マークがあります。
見分ける際の参考にしてください。とはいえ、上記の表示は義務ではないので、不明なときは、ドラッグストアの店員さんに確認してみましょう。
確定申告にはレシートや領収書が必要
セルフメディケーション税制の適用により、税金還付を受けるためには、翌年1月以降に確定申告を行う必要があります。
年末調整はできませんので、サラリーマンの人は、今のうちに確定申告のやり方を押さえておきましょう。では、確定申告の流れや注意点をみていきます。
税金還付までの流れ
セルフメディケーション税制による控除を受けるまでの流れは、概ね下記のとおりです。
・対象医薬品を購入する
・レシートを取っておく
・健康診断や予防接種などを受ける
・健康診断の結果通知を取っておく
・対象医薬品の購入額を計算する
・確定申告する
確定申告書は、オンライン上でも作成できます。また、セルフメディケーション税制の確定申告に関する詳細な内容も、国税庁のホームページに掲載されています。申告の際に不明な点は、予め確認しましょう。
とにかくレシートは捨てないようにする
普段は捨ててしまいがちなレシートや領収書ですが、確定申告の際に必要となるため、必ず取っておいてください。
また、薬を購入したときの領収書だけではなく、検診の結果通知や予防接種の領収書も必要になるため、合わせて保管しておいてください。
従来の医療費控除とはどちらがお得なの?
ここで、従来の医療費控除とセルフメディケーション税制のうち、どちらを選択すれば、よりお得になるかが気になります。
従来の医療費控除とは、1年間に10万円以上の医療費を支払った場合に、保険金などで填補された金額を除いた金額が所得控除される制度です。
セルフメディケーション税制による控除と、従来の医療費控除は、いずれか片方を自由に選ぶことができます。
いずれを選択すべきは、各家庭の年間の医療費や市販薬の購入状況によって異なります。以下、2つのケースを挙げて、それぞれシミュレーションしてみました。
【ケース1】
年間医療費11万円、セルフメディケーション税制対象医薬品購入金額5万円の世帯
従来の医療費控除は、10万円を超えた部分が対象となります。そのため、このケースで控除対象となるのは1万円です。
一方、セルフメディケーション税制の対象となるのは5万0000円-1万2000円で、3万8000円になります。
したがって、セルフメディケーション税制を使って確定申告を行う方が、控除対象額が2万8000円多くなるので、お得になります。
なお、具体的な節税金額は年収により異なります。例えば、課税所得が500万円の場合の所得税は20%、住民税は一律10%前後なので、セルフメディケーション税制による控除を利用した場合の節税額は以下のとおりです。
所得税:3万8000円×0.2=7600円
住民税:3万8000円×0.1=3800円
合計 1万1400円
※税率の計算は簡略化しています
このように、上記世帯では、確定申告によって購入金額の2割以上も還付されることが分かります。市販薬を積極的に購入する人にはお得ですね。
【ケース2】
年間医療費20万円、セルフメディケーション税制対象医薬品購入金額3万円の世帯
次に、年間の医療費が20万円の世帯はどうでしょうか。この場合、従来の医療費控除の対象となるのは10万円です。
一方、セルフメディケーション税制の対象となるのは、3万円から1万2000円を引いた1万8000円です。
この世帯では、医療費控除を選択した方が、控除額が多いことが分かります。
まとめ
このように、セルフメディケーション税制は、今まで多忙で医療機関を受診する時間がなかった人も、気軽に控除を利用できるメリットがあることが分かりました。
従来の医療費控除とは無縁な人でも、確定申告によって税金が還付される可能性が高まります。
また、年間1万2000円という金額は、4人家族の場合、1人3000円以上の対象医薬品を購入すれば到達できます。子どものいる家庭でしたら、簡単に超えられる金額です。
「自分たちには関係ない」とは思わずに、ドラッグストアで市販薬を購入したときは、必ずレシートを保管しておきましょう。