故郷の実家を相続したけど自分の家はあるし、仕事や子供の進学もあるから故郷には戻れない。
実家は自分が生まれた頃に両親が建てた木造住宅、すでに築50年以上で老朽化も進んでいるから賃貸にもできず、売却もままならない。
空き家はそんな事情から生まれるケースも多いようです。
「建物が無いと固定資産税が高くなるから」「生まれ育った家を取り壊したくない」などの理由で空き家は解体されずに残されます。
手入れがされていれば問題はありませんが、放置されて倒壊や防犯、防災上のリスクが高い空き家が増え「空き家問題」といわれる社会問題になっています。
近隣の住民に迷惑をかけている空き家の所有者に対する管理責任を明確化し、所有者が責任を果たさない場合には行政が介入して解決できるように「空き家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家対策特別措置法)が平成27年5月から施行されました。
「空き家対策特別措置法ってどんな法律?」「法律で空き家は固定資産税が高くなる?」そんな疑問にお答えします。
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そもそも「空き家問題」ってなに?
2014年の総務省の「平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果」のデータによれば、全国の空き家の数は820万戸にのぼります。
総住宅数6063万戸に対して空き家率は13.6%で、だいたい7軒に1軒は空き家という状態になっています。
また、野村総合研究所の発表した「‹2017年度版› 2030年の住宅市場」によると、このまま人口減少が進めば、2023年の空き家率は20%、2033年には30%を超えると予想されています。
空き家の数字には借り手のいない賃貸物件、売却中の空き家、別宅や別荘なども含まれています。
「空き家問題」はこれらの物件ではなく「人が住む予定がない住宅」が引き起こす問題です。空き家全体の4割以上が該当しその数は344万戸といわれています。
その中でも「所有者が遠方に居住している」「実際の所有者が分からない」などの理由で管理が全くされず、野放しになっている「放置住宅」には以下のような問題があります。
建物の老朽化
瓦の落下や外壁の剥落など目に見える劣化はもちろん、雨漏りや白アリ被害などによる構造体の脆弱化など、倒壊につながる目に見えない劣化が放置されてしまいます。
防災上の問題
老朽化が急速に進むことにより、地震、台風、大雪などの自然災害で倒壊する可能性が高くなります。倒壊により直接的な人的被害が出る場合や、救急車両の通行を妨げるなど副次的被害も拡大します。
防犯上の問題
「誰も来ることがない家」となると、不心得者や犯罪者の不法侵入によりアジトなどに利用される場合があります。不法占有者による火事だけでなく、放火の対象になる可能性もあります。
景観や衛生の悪化
朽ちかけている建物はもとより、手入れされていない庭の雑草や建物に絡みついたツタ、壁の落書きなど周囲の景観を破壊します。害虫の大量発生や野良猫、ネズミなどの住処になったり、ゴミの不法投棄場所になったりします。
空き家対策特別措置法の経緯と目的
こういった問題が顕在化して居住快適性が著しく低下するのは、空き家率30%以上が一つの目安といわれています。
その地域に住む人たちの心も荒れ、街の荒廃へとつながっていきます。空き家の増加によりこうした問題が日本のあちこちで起こるようになっています。
「空き家問題」は公共の問題なので、行政による解決が必要になります。
早い時期から人口減少が進んで空き家問題が顕在化した自治体で「空き家条例」などが先行して制定されてきました。
ただ「問題のある空き家の解体」を国や自治体などの行政が実施するには、法律上の大きな壁がありました。
空き家はその所有者の個人財産なので、たとえどんなに危険でも行政が勝手に立入調査や処分をすることはできません。
そのため行政は所有者に対し指導はできても、最終的には所有者の良識に頼るところが多く、実際は野放しの状態が続いていました。
既存の法律では対策を進めにくいため国が空き家対策特別措置法を立法し、各自治体の空き家対策に法的根拠を与え、空き家対策の基本指針を決定しました。
空き家対策特別措置法の条文による目的
- 適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、空家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進する。
- 地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図る
- 空家等の活用を促進するため「国による基本指針の策定」と「市町村による空家等対策計画の作成その他の空家等に関する施策」を推進するために必要な事項を定める。
法律に則った空き家対策については、国や都道府県の支援のもと市町村(政令指定都市含む)の各自治体が「空家等対策計画」を策定して実施していくことになります。
空き家対策特別措置法で定められた、空き家問題に対する具体的な事項を説明します。
「特定空家等」の指定
空き家対策特別措置法の対象となる空き家を「特定空家等」と定義しています。
条文では「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」となっています。
具体的には国土交通省が定めた「「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」で基準や判定項目、例などが示されています。
「特定空家等」の基準
基準 | 調査項目や状態の例 | |
建築物が著しく保安上危険となるおそれがある | 建築物が倒壊等するおそれがある | ・柱の傾斜や基礎の不動沈下などによる、建築物の著しい傾斜 ・基礎、土台の破損や腐朽、柱、はり、筋かいのずれや破損などによる構造耐力上主要な部分の損傷 |
屋根、外壁等が脱落、飛散等するおそれがある | ・屋根ふき材、ひさし又は軒などの剥落、腐朽 ・外壁の剥離、破損 ・看板、給湯設備、屋上水槽等の破損、脱落 ・屋外階段又はバルコニーの腐食、脱落 門又は塀のひび割れや破損 |
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擁壁が老朽化し危険となるおそれがある |
・擁壁表面の水のしみ出しや流出 ・水抜き穴の詰まり ・ひび割れ |
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そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態 | 建築物又は設備等の破損等 |
・吹付け石綿等の飛散 ・浄化槽等の放置、破損等による汚物の流出、臭気の発生 ・排水等の流出による臭気の発生 |
ごみ等の放置、不法投棄 | ・ごみ等の放置、不法投棄による臭気の発生や多数のねずみ、はえ、蚊等の発生 | |
適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態 | 既存の景観に関するルールに適合しない |
・景観法に基づく景観計画の形態意匠等の制限に適合しない ・地域で定められた景観保全に係るルールに適合しない |
その他 | ・屋根、外壁等が、汚物や落書き等で汚れたまま放置 ・多数の窓ガラスが割れたまま放置 ・看板が破損、汚損したまま放置 ・立木等の繁茂・敷地内にごみ等が散乱、山積したまま放置 |
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その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態 | 立木が原因のもの | ・立木の腐朽、倒壊、枝折れ等が生じ、近隣の道路や家屋の敷地等に枝等が大量に散らばっている ・立木の枝等が近隣の道路等にはみ出し、歩行者等の通行を妨げている。 |
空家等に住みついた動物等が原因のもの |
・動物の鳴き声その他の音が頻繁に発生 ・動物のふん尿その他の汚物の放置 ・敷地外に動物の毛又は羽毛が大量に飛散 |
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建築物等の不適切な管理等が原因のもの |
・門扉が施錠されていない、窓ガラスが割れている等不特定の者が容易に侵入できる状態で放置されている。 ・屋根の雪止めの破損など不適切な管理により、空き家からの落雪が発生し、歩行者等の通行を妨げている。 ・周辺の道路、家屋の敷地等に土砂等が大量に流出している。 |
このように安全、防災、衛生、環境面で近隣に悪影響を及ぼす恐れがある空き家を「特定空家等」としています。
国土交通省のガイドラインにそって、各自治体で判定基準を作成し運用することになります。
実際には近隣への迷惑の程度や、危険の切迫性などが考慮され個別案件ごとで様々な判断がされます。
ガイドラインでは「個別の事案に応じてこれによらない場合も適切に判断していく必要がある」とされていますので、上記の基準によらないケースでも「特定空家等」に指定される可能性はあります。
「特定家屋等」に指定された場合でも、行政から指摘された事項を改善すれば、「特定空家等」の指定から外れます。
「特定空家」の所有者に対する行政指導と処分
所有者が空き家の管理義務を果たしてない場合、市町村は「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針に沿って、以下の流れで所有者に対する改善と指導を行います。
行政の対応 | 内容 |
空き家の調査 |
空き家の所有状況の確認。 所有者への通知後、空き家への立ち入り調査を実施 |
「特定空家等」の指定 | |
助言・指導 | 「庭の木が道路にはみ出ているので伐採をしてください」など軽微な改善の通達は法的な拘束力のない助言が行われます。 所有者が助言に従わない場合や、緊急で改善が必要な場合などは指導を受けます。指導は助言よりも重く、早急に対応し改善することが必要です。 |
勧告 | 指導を受けても改善が見られない場合、勧告を行います。勧告は書面で行われ、改善までの猶予期間や期間内に改善されない場合は次の段階の「命令」を行う可能性などが記載されます。勧告は「歩道に面した壁の破損で、壁材の落下によって人的被害の可能性がある」などの深刻なケースなので早急な対応が必要になります。 |
命令 | 勧告までの行政指導で改善されない場合、所有者は行政処分である命令を受けることになります。勧告と同じように猶予期間が設定され期限内に改善されない場合、行政代執行を行う旨通知されます。命令が実施された場合公報への掲載が行われ、行政により空き家に対する標識も設置されるため、所有者名や住所も含め広く知られることになります。 |
行政代執行 | 命令を受けた期間中に改善が見られない場合は、行政による建物の解体、ごみや塀の撤去などが行われます。所有者に代わり行政が実施しますが、作業費用の全ては所有者に請求されます。 |
空き家対策特別措置法では所有者に対する罰則が規定されています。
・立入調査に対し、拒否、妨害、忌避した場合 過料20万円以下
・命令に従わなかった場合 過料50万円以下
「固定資産税の1/6減免措置」については、勧告を受けた時点で無くなります。
税制面で優遇を理由に解体されなかった老朽化した空き家も、所有者による自発的な解体が進むと期待されます。
行政による所有者探しも確実にできる
空き家対策特別措置法の特徴は、空き家の所有者を探すために固定資産税の納税情報を利用できるようになったことです。
通常は不動産登記簿に所有者は記載されているのですが、法律上の義務は無いので未登記のままであることもよくあります。
複数人で相続したものの、実際に所有者が決まっていない場合や、相続した場合の相続登記もされていない場合など登記簿上から所有者を探すことは難しい面があります。
固定資産税の納税情報を利用することで、自治体は空き家の所有者をスムーズに特定できるようになります。
空き家対策特別措置法の施行状況
実際に各自治体でどのように運用されているかについては、国土交通省が平成28年3月31日時点で1,788の自治体に対する実態調査を行い、「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」という資料を発表しています。
自治体での空き家対策の具体的な実施計画となる「空家等対策計画」の策定については、策定済みが3%(63)、平成28年度中が24%(422)、平成29年度中が10%(168)平成30年度以降が1%(16)、時期未定が41%(711)です。(カッコ内は自治体数)
施行後1年未満のアンケートのため、「策定予定なし、未回答」が361あり、計画の時期未定も含め自治体による取り組みは、まだこれからといった感じです。
空き家問題は早急に対策が必要な問題ですが、自治体にとっては負担が大きい問題でもあります。
法律ができたとはいえ、対策計画の策定、協議会の設置、「特定空家等」の判断基準の策定、立入調査を行う専門要員の確保などの準備が必要です。
所有者の特定にかかる手間や、所有者の特定ができない建物の除却に必要な費用の予算措置など運用も大変です。
「空き家問題」よりも優先する課題を抱える場合もあるので、自治体によって本格的な対応時期には差が出てきそうです。
実際に運用されている自治体はまだ少ないですが、アンケートによる「特定空家等」に対する措置の実績は以下の通りです。
市町村数 | 措置件数 | |
指導・助言 | 168 | 2895 |
勧告 | 25 | 57 |
命令 | 3 | 4 |
代執行(略式代執行含む) | 9 | 9 |
代執行は長崎県新上五島町、別府市、横須賀市、板橋区などで実施されています。
ほとんどのケースで所有者が特定できず、行政の費用負担にて解体が実施されました。
今後は所有者へ費用請求できるケースも増えるとは思いますが、除却費用の増加による自治体の財政面への影響も気になるところです。
固定資産税の減免措置がなくなる勧告までいったケースは57件ですが、指導・助言で改善されるようになったと考えれば効果があるとも判断できます。
空き家の有効活用の推進
空き家対策特別措置法は問題となる「特定空家等」の処分だけでなく、「特定空家等」を増やさない「空き家の有効活用の推進」も目的にしています。
これまで、国の政策は経済波及効果の高い新築住宅への優遇措置を進めてきました。
平成25年6月に国土交通省が発表した「中古住宅流通促進 中古住宅流通促進・活用に関する研究会(参考資料)」の情報では、民間の中古住宅市場は活性化せず、住宅取引額の約8割が新築住宅になっています。
購入する側からすれば、新築住宅を購入した方が税制面の優遇や低金利の住宅ローンが使用できるメリットがあり、わざわざ中古住宅に住むメリットがあまりありません。
「借り手がいない」「売れない」住宅が「特定空家等」予備軍になっているため、人が住み続け、管理され続ける住宅を増やす施策を推進することが必要です。
各自治体が中古住宅の取引を活性化できる施策がとれるように、国が情報提供や補助金などを準備しバックアップしています。
自治体で行われている具体的な推進事業をご紹介します。
空き家バンク事業
自治体が空き家所有者からの物件情報を集め、利用希望者にホームページなどで情報提供を行ってマッチングを行う事業です。
通常の不動産業者での仲介では「借り手」「買い手」が見つからない物件も多いため、多くが利用者に対し行政からインセンティブが与えられる制度になっています。
地方では人口減少、過疎化対策と空き家対策を組み合わせ、Uターン(生まれ故郷に戻る)Jターン(生まれ故郷の近隣へ戻る)Iターン(都市部などから移住する)へのインセンティブを手厚くしている自治体も多くあります。
また、空き家バンクを運用していない自治体でも、市町村の条件に合った空き家に対する改修費や家賃の補助がある場合もあります。
空き家を活用した高齢者や子育て世代の住み替え支援制度など自治体の事情に即したさまざまな施策が行われています。
空き家の転用による活用
自治体が空き家の買取や借上げを行い、他の用途に転用する事業も進められています。
市街地のにぎわい再生と組み合わせ、空き家を改修して店舗やコミュニティレストラン、貸し会場へ転用した例や、UIターン者向けの市営住宅へ転用した例もあります。
立地など条件の良い空き家や、街のイメージに合った古民家など対象は限られますが転用によってイメージが上がれば、中古住宅市場の活性化にもつながります。
「特定空家等」にしないためにはどうする
いちばんよい方法は住むことですが、「売却できない(しない)」「、賃貸できない(しない)」のであれば、定期的に適切な管理をしていく以外ありません。
空き家は2~3年も放置すれば朽廃などが目立つようになり、4~5年も放置すれば「特定空家等」認定の基準まで達する可能性もあります。
空き家を物置や正月などの親族の集まりで使う場合も多いようですが、少なくとも2~3か月に一度は定期的にチェックするように心がけたほうが良いようです。
自分で劣化を防ぐために巡回や手入れができない方向けに、月額数千円~1万円程度で空き家を巡回してくれる民間のサービスを展開している不動産会社もあります。ですので、状況に応じてそれを活用することも検討した方がいいかもしれません。
外観の確認だけでなく、入室して部屋の空気の入れ替えや、室内の異常の有無を確認してくれる業者がよいでしょう。
相続した際に兄弟姉妹で共有名義にしてしまい、誰が管理するのか決まっていない場合などは早急に方針を決めることも必要です。
共同名義の場合、空き家を「売却する」「賃貸にする」「解体する」などを決めるのにも、名義人全員の合意が必要になります。
意見がまとまらなければ方針が決まらず、空き家状態が続いてしまいます。老朽化が激しい場合は、解体してしまった方が良い場合もあります。
固定資産税は上がってしまいますが、空き家管理サービスの費用、法律違反をするリスクとその精神的な負担を考えれば、解体して更地にしてしまった方が楽になります。
更地にすることで売却が有利になる可能性もあります。老朽化した空き家の解体費に対し助成を行っている自治体もありますので、所在地の自治体に問い合わせてみたほうが良いでしょう。
まとめ
少子高齢化が進むにつれ、空き家問題は悪化する一方になっていきます。
空き家対策特別措置法で所有者は空き家の放置ができなくなりましたが、一部の自治体を除けば、本格的な空き家対策はこれからといったところです。
民間では、空き家管理サービスのほか、空き家をリノベーションして転売する専門の業者や、空き家をシェアハウスや民泊へ転用する「空き家ビジネス」も出てきていますが、建物の老朽化以外の条件がよい物件に限られるようです。
もし相続で住む予定の無い家を所有する事になったら、売却を優先して検討した方が良いでしょう。
地価の上昇が期待できる条件の良い物件以外は、不動産が「負動産」に変わる前に売ってしまった方が得策です。
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